備忘録

例えば私は、私の好きな男のことを好きな女を好きになれないし、その女のツイートやストーリーをスクショして眺めては笑ってやるし、セフレの部屋のベランダでどうでもよくない話をそこそこの声量でしてみせるし、荒れた部屋の掃除をしたいし必ず忘れ物をしていきたいと思う。渡された部屋の鍵を眺めて優越感に浸ったし、私を信用したんだかなんだかよく分からないあの人の背中を見送るし、布団に横になって本を読む。

この部屋に鍵をかけて私を閉じ込めてしまえばよかったじゃないと思う。あなたにはそれが出来たというのにどうしてしなかったのだろう。
閉じ込めたところで鍵を渡したところで、私はいつかあなたに飽きてしまうというのに。
あなたと幸せになりたいと言った私を信じたのかそうじゃないのか。言葉の真相なんて分かるはずがないのだけれど。すべてを夏と夜のせいにしてしまえばすべては解決するのかもね。それはきっとあなたの真実。

鍵をかけようがなんだろうが、私はどこかへ行くだろうに。あなたがそうするように私があなたを裏切らないわけではなかったというのに、いつでも。身体はここにいても、心はどこか遠いところへ消えていけるのだ。信じればきっと。
暑さに頭が溶けていく。あなたがこのまま帰ってこなければ私の最後の記憶はあなたのその背中なのにと思って悔しくなった。ただいまの声を聞いて後悔した。ここで私が死んでいたらあなたはなんて言い訳するだろうかなんて考えたりして。酸素の足りない頭を枕に投げ出してブルーライトに目を刺させて。私はまた夜に溶けだす。

恋とはいつだって死に至る病だ、と思う。絶望の味もする気がするし、希望の匂いを感じる気もする。ただ寝苦しい夜にはそのどちらもが、恋そのものが漂っているのかもしれない。
今だけが私の生きる瞬間であって、ポエミーな気分だけが私の原動力である、のかもしれない。
そんな人間ははいてすてるほどいて、私は特別な人間なんかじゃないことを、特別な人間になりたいただの人間であることをまざまざと見せつけてきやがる。私だって特別な人間になりたかったのに。生まれてきたからには誰かに選ばれて憧れられて、そんな人生に憧れていたのに。この言葉も誰かをなぞっているだけだ。美しくなんてない。誰かをなぞった何かをなぞって、色褪せた文字は美しくなんてなかった。美しさとは独創性なのか、独走性なのか。ひとりがひとりとして生きていくことなんて出来るんだろうか。誰かを鏡にして杖にして、私は私を初めて見ることができるというのに。

乱雑に置かれた雑誌の山と薄汚れたスマホケースはきっと私自身だから。最底辺のメンタルと生きる自分の姿だから。幸せだね、知らないということは。知ってしまったことを今更どうすることも出来ず見て見ぬ振りもできず、なかったことをあったことにしてしまった自分に嫌気がさす。あつい。


やはり会う前の待ち合わせが一番好きだ。この時間を知らない時間が私は好きだ。駅ビルのちょっと歪んだベンチに座ってその一言を待つ時間が一番なのだ。だから物語は始まる前が、映画は見る前が、きっと一番の輝きを持つのだろう。期待というものはいつだってキラキラと眩しくて好きだ。