あるなつのおもいで

彼は、私の学校の最寄り駅も、おうちの最寄り駅も知らなかった。知らないというより、覚えていないし、もっと言えば興味がない。そんな男に恋をしたものだった。

彼と出会ったのは高校一年生の夏だった。きっかけははっきり覚えているし、その日に来ていった服も、待ち合わせした場所も、待ち合わせ場所までついてきてくれた友人との会話だってばっちり記憶にある。人生で2度目の出会い厨が成功した瞬間だった。

「とりあえずうちくる?」決してイケメンというわけではなかったように思うが(好みでなかっただけかも)彼は好青年といった感じで、前回失敗しただけに大当たりだわと内心喜んでいたのを覚えている。彼の問いに私は頷く。
電車内でどんな話をしたのかは覚えていない。ただ彼に対して私は好印象を抱いていたことだけは確かだった。ちょっとハスキーな声がとても耳に心地よかった、あの時は。

夏になると毎年思い出す。あの日のことを。君が逃した魚は大きくなったんだよ。私をいらないと言った日も、私が君から離れた日も、私は鮮明に覚えている。残念ながら。
好きだった人を思い出にできるようになったけど、思い出のまま私の中に残り続けているわけで。こうやってなんども取り出して眺めているのは私だけなんだろうなって思う。そんなの不公平だ。

どうか彼が、私のことを一生忘れられずに生きていきますように。


今週のお題「星に願いを」